約 1,076,740 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1155.html
ともだち~ ずっとともだち~♪ ギーシュは上機嫌だった。 ずっとともだちいな~い♪ 鼻歌まで歌ってゴキゲンである。彼は両手で何か大きな箱を抱えて 中庭を歩いていた。箱の中にはギッシリと、色んな形の小瓶が詰められて いる。小瓶――そう、香水である。「香水」の二つ名を持つ彼女、 モンモランシー・マルガリタ・中略・モンモランシに、彼はこの香水の山を プレゼントするつもりなのだ。こいつを決め台詞つきでプレゼントした 時の彼女の反応を考えると、ギーシュはニヤニヤが止まらなかった。率直に 形容すると、いわゆる「アホ面」というやつだ。そういうわけで、彼はこの後の 勝利を確信しながら、それはもう上機嫌でモンモランシーの元へと向かって いたわけである。すると後ろの方から彼を呼ぶ声が聞える。 「ギーシュ!あなた何を持っているの?」 この声は・・・!ギーシュは確信した。モンモランシーだ!少し予定と違うが まぁいい!コホン、と一つ咳払いをすると、 「ああ、まるでセイレーンの歌声のようなその声!君はモンモランシーだね! なんという偶然、いやこれは始祖ブリミルの与えたもうた奇跡!僕も今君に 会いに行こうと・・・」 優雅な仕草でギーシュが振り返ったそこには、 般若のような形相で仁王立ちするケティの姿があった。 「ギーシュさま・・・」 背後からゴゴゴゴゴゴという擬音を引き連れて、ケティは死神のような眼で ギーシュを睨む。 「やはり・・・・ミス・モンモランシーと・・・・・・」 「ケッ、ケケケケケケティ!!ちっちががちが違うんだよこれは!!これは 先生に頼まれて――」 バッチィィイィン!!! 「さよならギーシュさま・・・死ねッ!!!」 へなっぷすいませんと叫びながらフッ飛ぶギーシュに、ケティはもはや一瞥も くれず歩き去った。 見事なきりもみ回転でフッ飛んだギーシュは地面に倒れたまましばらく痛みを こらえていたが、ハッと香水のことを思い出して跳ね起きた。 「ああああ!!こっ、香水ッ!割れてないだろうなぁ~!?」 ギーシュは地面に跪き、急いで香水をかき集める。よかった、どれも割れては ないようだ。使い魔に手伝わせてガチャガチャと箱に放り込む。草や土が ついてるものもあるだろうが・・・モンモランシーなら適当に言い繕えば ごまかせるだろう。ギーシュはそう判断すると、香水を仕舞い終わった箱を 持ち上げて歩き出した。さっきの事は色んな意味で痛かったが、この傷は モンモランシーの笑顔で癒してもらおう・・・などと考えると、ギーシュの片側だけ 腫れた顔はまたニヤニヤと歪むのであった。しかし――、不幸とは往々にして 連鎖するものである。ニタニタと上の空で妄想にふけっていたギーシュは、 前から歩いてくる少女もまた考え事で前など見ていなかったことに気付かなかった。 そして。 ドンッ!! 「うわッ!?」 「きゃあッ!!」 二人はハデにぶつかり、ハデに吹っ飛んだ。 「いったたたたた・・・ き、君ッ!前はちゃんと見て・・・アッー!!!」 なんと不幸な偶然か、再びギーシュの手から落ちた香水の山は、2度目の 衝撃に耐えることは出来なかった。ギーシュと少女の周りに散乱した小瓶、 その実に3分の2が無残に砕け散ってしまっている。 「なッ・・・なッ・・・なんということだ・・・!大枚はたいて買ったモンモランシーの ための香水が!!」 絶望と怒りに打ち震えるギーシュ。 「君ッ!!」 それがないまぜになった感情をぶつけるべく、ギーシュはキッと少女を睨む。 「責任は取ってもらうぞッ!!ゼロのルイズッ!!」 ルイズは悄然とした表情で中庭を歩いていた。ギアッチョはただ訳も分からず 異世界へ送り込まれてきただけの平民ではない。唯一心を許せる仲間達を 皆殺しにされ、その上リーダーを一人残したまま自分まで殺されてしまったのだ。 もしもギアッチョが自分だったら、とルイズは考えた。唯一無二の親友である アンリエッタが、敬愛するワルドが、そして家族が皆殺しにされてしまったら。 そう考えると、今までギアッチョにされた仕打ちなんか全て忘れて、ギアッチョの 隣で泣きたくなる。ギアッチョの怒りは、悲しみは、痛いほど分かっている つもりだった。それなのに、自分はギアッチョにあんな酷い事をしてしまった。 どれだけ悔やんでももう遅い。自分とギアッチョの心には、きっともう修復なんて 不可能な溝が出来ている。――ギアッチョは厨房の平民達の屈折のない善意に 囲まれていた。自分じゃきっと一生かかっても素直になんかなれない。自分は あの輪の中には永遠に入れない。ルイズはそう確信していた。 ルイズは幼い頃から周囲にバカにされ続けてきた。例え口には出されなくても、 周囲の眼は「ゼロだ」「落ちこぼれだ」という意識を持ってルイズの心に突き刺さる。 幼いルイズが心無い他人達から身を守るには、虚勢という張子の盾を持つしか なかったのである。そしてその盾はもはやルイズの心と完全に一体化し、 ごく一部の親しい人間を除いて、ルイズはその心の深奥を誰かに吐露する 事など出来なくなってしまっていた。 ――あいつの居場所は・・・私の隣じゃ・・・ない ルイズはもう一度呟き、そして悲しい決意をした。やっぱりダメだ。元の世界に 戻るにしろ、ここに留まるにしろ、あいつは私の使い魔なんかでいるべきじゃ ない。あいつを元の世界に送り返す方法か・・・もしくは契約を解除する方法。 どっちを選ぶかはギアッチョ次第だが、とにかくどちらかを見つけなければ いけない。そんな事を考えながらルイズは図書室へと歩き出し――そして、 ギーシュと衝突した。 「責任ですって!?前を見てなかったのはあんたも一緒でしょ!!どっちか 一人でも前を見ていたらぶつかりなんてしないわ!」 「黙りたまえゼロのルイズ!僕達の周りを見ろッ!!僕が大金をはたいて 買った香水だぞッ!!責任を取るのはそっちだ!!」 ルイズはそこで初めて周囲に眼をやり、香水瓶だったものの惨状を知った。 「フンッ!どうせモンモランシーにあげるつもりだったんでしょう!!あんた みたいな趣味の悪い男にはお似合いのプレゼントね!!自分の不始末は 自分でぬぐいなさいよッ!!」 「言ったなゼロのルイズッ!!大体どうして君がまだここにいるんだ!? 魔法も使えないメイジが魔法学院にいるなんてお笑いだな!!君がとっとと ここを辞めていれば僕がここでぶつかることもなかったんだ!!土下座して 謝りたまえ!!そしてこいつを全部弁償しろッ!!そうすれば君がこの学院に 居続ける事を許してやろう!!」 「・・・なんですって・・・!!何も・・・何も知らないくせに・・・ッ!!許さないわ ギーシュッ!!決闘よッ!!!」 「ゼロのルイズが決闘だって!?アッハハハハハ!!いいだろう、女性に 手は上げない主義だが・・・受けて立とうじゃあないかッ!!僕が勝ったら 君は僕に土下座で謝った後にこいつを全て弁償し、その上でこの学院を 出て行けッ!!いいな!!」 「・・・上等じゃない・・・!!私が勝ったらもう二度と私を『ゼロ』だなんて 呼ばせないわッ!!ギーシュッ!!」 「いいだろう・・・フフフ・・・『君が勝ったら』ね!!こいつは傑作だ!! アッハハハハハハ・・・!!」 こいつは自分の勝利を微塵も疑っていない。ルイズは悔しさで涙が出そう だった。目頭が熱くなるのを必死で堪えていたその時、 バグシャアアッ!! 「あぁあぁああーーーーッ!!!ぶっ、無事だった香水をぉおお!!」 壊れることなく残っていた香水瓶を踏み潰しながら―― ギアッチョがそこに立っていた。 「・・・なッ・・・何してんのよッ・・・っく・・・ギアッチョ・・・!私を笑いに来たの なら・・・帰りなさいよ・・・!あんたには・・・うっく・・・関係ないでしょ・・・ッ!」 悔しくて情けなくて、ルイズはついに涙を堪え切れなかった。涙を見せまいと うつむきながら、ルイズは精一杯の強がりを言う。こいつには、ギアッチョに だけは、こんな場面を見られたくはなかった。きっとこいつは完全に幻滅した。 そう思うと、ルイズの涙はいよいよ量を増して溢れて来る。 だが―― 「いいや・・・関係あるね てめーはさっき言ったよなぁあぁ~~ 主の不始末は 使い魔の不始末だってよォォーー・・・!」 そこまで言うと、ギアッチョは色をなくした眼でギーシュを睨む。 「ルイズの不始末は・・・オレが引き受ける ギーシュとか言ったな・・・てめーの 決闘の相手はよォォーーー!!このオレだぜマンモーニッ!!!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2456.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 召還の儀式の最後の一人、ルイズが数十回の失敗の後になんと平民を呼び出してしまったとき、トリステイン魔法学園の教師、コルベールは驚いた。なにせ人間を召還するなどというのは今まで前例がない。 しかし、同時に彼は、落ちこぼれで見栄っ張りだが、その実影で涙ぐましい努力をしているルイズのことを、とても心配していたので、形はどうあれ、初めての成功を心の底から喜んだ。 ルイズは不満だ、やりなおしたいと食って掛かってきたが、コルベールはそれを許さなかった。 「(使い魔が何であるか、なんて長い目で見たら大した問題ではないんですよ・・・)」 使い魔によってメイジの才能を見る向きもあるが、それを言えば我が学院の長にして大賢者オスマンの使い魔はハツカネズミではないか。 それよりも、使い魔を従えたという事実こそが大事なのだ。ルイズへの風当たりもきっと弱まるに違いないし、そのほうが彼女に必要なことのはずだ。 だから、コルベールの心配を知ってか知らずか、ルイズがしぶしぶとコントラクト・サーヴァントを成功させたときは肩の荷が下りたような気すらした。 使い魔が人間だということは、後で学長と相談して何らかのフォローを入れよう。使い魔になる平民は少し可哀想な気もするが、なに、気にすることはない。 トリステイン最大の大貴族、ヴァリエール公爵家三女にとって唯一無二の存在になれるのだ。決して粗略にはされまい。 後は使い魔の少年の手に浮かび上がってきた奇妙なルーンを写し取って学院へ帰ろう。 コルベールはルーンを近くで見るために少年の手を取ろうとした。 油断しきっていたコルベールは、さっきまで顔を赤くして混乱していた少年の目に、いつの間にか『覚悟』の光が見えていることに気がつかなかった。 「エコーズACT3!その男を攻撃しろォー!!!」 『ACT3 FREEZE!』 その瞬間コルベールの体は草原にめり込むほどの勢いで前のめりに墜落してしまう。 「な・・・なんだ・・・?」コルベールは何かに躓いたのかと思い立ち上がろうとした。だが、意に反して腕をあげることすらできない。 「コルベール先生、何もないところで転ばないでくださいよ!」遠巻きに見ていた生徒達が笑う。だがコルベールは自らの身に起きたことの異常性に気づき始めていた。 「(う、動けない・・・!これは・・・私の体が『重くなっている』!?この少年の仕業か?そんなはずが・・・!重力制御など、例え土のスクウェアでも出来るものではない・・・!)」 ビキビキと体中の骨が軋む音がする。呼吸すらままならない。 いつまでも起き上がらないコルベールを生徒達が不思議に思い、騒ぎ出す。 「コルベール先生いつまで寝転がっているんだ?」 「ていうか、おい!あれを見ろよ!ゴーレムか?」 「見たことがない形・・・っていうか、微妙に浮いてる気がするんだが・・・」 「まさかメイジ・・・?でも杖は持ってないぞ!?」「マントも着てないしな。」 コルベールは目だけを辛うじて動かして、少年を見上げた。 すでに契約の刻印も済んだのだろう。立ち上がった少年はコルベールを見下ろした。 「それ以上・・・ぼくに近づかないでもらう・・・」 そしてその少年の前に、白い小さな人影が見える。体中に翠色の装飾を施した見たこともない形状のゴーレムだ。 ゴーレムはコルベールを指差して言った。 『射程距離5mニ到達シマシタ。S.H.I.T!』 このゴーレムがやったことなのだろうか。 もしかしてミス・ヴァリエールはとんでもないものを召還してしまったのでは・・・? だが当の本人は事態の深刻さをまるで分かってないようだ 「そのゴーレム、あんたの?コルベール先生に何をしたの?」 「今度はこっちが質問する番だっ!!いったいぼくに何をしたんだ!!」 康一はルイズを睨みつけた。 「なによ。そんな目したって怖くないわよ!あんたはもう私の使い魔になったんだから、私の言うことを聞きなさい!私の質問に答えるのよ!」ルイズは命令した。 ファーストインプレッション(第一印象)が大事なのだ。使い魔に我が侭を許せば後が大変である。イニシアチブを取らなければならない!・・・と本に書いてあったのだ。 「使い魔だって?それはすごく・・・すごく嫌な響きがするぞっ・・・!人間というよりは、まるでペットを呼ぶような・・・」 「ペットじゃないわ。まったく・・・使い魔も知らないなんて、どこの田舎者よ・・・。とにかく、あんたは私が召還したんだから!私の言うことを黙って聞けばいいのよ!平民!」 「じゃあ、ぼくに攻撃してきたのは君・・・?」 そこで康一は気がついた。この女の子はスタンドが見えている。 つまりこの子はスタンド使いだ・・・! 「もう一度聞くよ・・・。ぼくに何をしたんだ・・・?この左手の印は何?」 「それは使い魔のルーンよ!あんたが私のものになった証よ!あんたは一生私に仕えるのよ!」 康一は震えあがった。 「じょ、冗談じゃないぞっ!ぼくはそんなのまっぴらごめんだっ!今すぐ元のところに戻してくれ!」 「知らないわよそんなの!あんたが勝手に来たんでしょ!私だって、あんたみたいなチビの平民が使い魔だなんて嫌よ!」 康一は目の前のルイズと呼ばれる女の子を攻撃するべきか考えていた。 しかし、自分よりも小さな女の子(きっと中学生くらいだろう)を攻撃するにはためらいがある。 それに、なぜかこの口の悪い女の子からは、不思議と『悪意』が感じられないのだ。 自分を拉致し、無理やり使い魔とやらにしようとしているにも関わらず! ルイズはこの生意気な平民をどうしてくれようかと考えていた。 意味の分からないことを喋るし、変なゴーレムは出すし、何よりこっちの質問にまるで答えようとしない!使い魔の癖にご主人様をなんだと思っているんだろう! そしてなにより、やっと手に入れた使い魔に、舐められるのだけは絶対に嫌だった。 二人の間に険悪な空気がただよう。 そこに車に潰されたカエルのように、未だ地面にへばりついたままのコルベールが割って入った。呼吸がほとんどできないので今にも死にそうなか細い声である。 「ちょ、ちょっと待ってください・・・。こんなところで争ってもしょうがありません。ミスタ、何か誤解があるようですから、どうか落ち着いた席で話し合いを・・・。」 「疑問はおありでしょうが、私からちゃんとお答えします。これは我々にとっても前例のないことなのです・・・」 康一は懇願するコルベールを見ながらしばらく考えていた。 自分は被害者のはずだ。でも攻撃したという当人達からはなぜか悪意を感じないのだ。 それどころかまるでこっちが理不尽なことをしているような空気すらある。 それにこの小さな桃色髪の少女はともかくとして、こっちの男性はまだ話が通じそうだ。 「・・・わかりました。ちゃんと説明してくださいよ!ACT3!3 FREEZEを解除しろ!」 康一がそういうとコルベールの目の前からゴーレムが消えた。それと同時に体の自由が戻ってくる。 コルベールは軋む体をなんとか立ち上がらせ、服についた草を掃った。 「えーと、大丈夫ですか?」康一が気遣う。 「ええ、なんとか・・・」コルベールは苦笑いした。 実はあまり大丈夫ではなかった。ものすごい圧力で地面に押さえつけられていたので息をするたびに肋骨が痛む。 骨は折れていないと思うのだが・・・。 コルベールは一つ大きく息をすると、ざわめく生徒達に向き直った。 「さぁ、みなさんはもう学院に戻りなさい!」 「ミスタ・コルベール!ルイズとその平民はどうするので?」人垣の中から手があがる。 「学院長と話しあった上で今後のことを決めます。みなさんは自分の使い魔をしっかり慣らして、しっかり明日の授業の準備をするように!では解散!」 コルベールは手を叩いて帰るように促した。 奇妙な平民や突然現れて突然消えたゴーレムに興味津々な生徒達だったが、彼らも自分の使い魔を召還したばかりである。 二言三言なにやら唱えて杖を振ると、大人しく言いつけにしたがって飛び去っていく。 「さぁそれではとりあえず学院長室までお越しください。そこで話を伺いましょう。ミス・ヴァリエール。当然ですがあなたにも来てもらいますよ。」コルベールも数語の呪文と共に浮かび上がり、生徒達の後を追っていく。 「と、飛んだ・・・」康一は愕然としている。空を飛ぶスタンド使い?しかも全員が? そしてそれを横で見送る桃色の髪の女の子に聞いた。 「君も飛ぶの?」 ルイズはそれを聞くと、きっと康一を睨みつけ、ぷいっとそっぽを向いた。 そして早足で歩き去っていく。 未だに自分の置かれた立場がいまいち分かっていない康一だったが、いつまでもここにいるわけにもいかないので、彼女の後をついていくことにした。 みなが立ち去った後、二人の少女がまだ帰らずに残っていた。 「ねえタバサ。いったい何があるって言うの?」 一人の少女は先ほどルイズにキュルケと呼ばれた少女である。大きく開いた胸元からは褐色の肌が覗き、はっとするような色気がある。その足元には大きなトカゲを従えている。 「ルイズの使い魔が気になるの?きっとマジックアイテムか何かをもっていたのよ。」 と腕を組む。 「たしかに不思議なゴーレムだったけれど、小さいしすごく弱そうだったじゃない?ミスタ・コルベールは不意打ちで転ばされてしまったんだわ。」 いかにも「これだからトリステインの男は」と言わんばかりに鼻を鳴らす。 しかしタバサと呼ばれたもう一人の少女――青いショートヘアーで、グンパツな女性と比べてこちらは背が小さく、なんというか・・・平坦だった――は真剣な表情で先ほどコルベールが倒れていた場所にしゃがみこんだ。 「見て。」 タバサはぼそりと言った。 「何?落し物でもあったわけ? え・・・これって・・・」 キュルケがタバサのそばまで行くと、今まで草で隠れていた『跡地』が見えた。その場所だけ地面が人型にめり込んでいる。 「深さは10サント近くあるわね・・・。でもどうして転んだだけでこんなことになってるのかしら。」キュルケはアゴに指をあて、 「実はミスタ・コルベールの体重が100リーブル(約470kg)くらいあった・・・とか?」冗談めかして笑った。 タバサは笑わずに振り返り、言った。 「只者じゃない。」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1156.html
「・・・ギ・・・ギアッチョ・・・?」 何がなんだか分からなかった。どうして?どうしてギアッチョが?私を 笑いに来たんじゃないの?それなら何故?私との違いを見せ付けるため? それともただ暴れたいだけ・・・? ルイズの頭には疑問符が次から次へと浮かんでいた。ギアッチョの真意が 分からない。それを確かめようと、ルイズは恐る恐るギアッチョの顔を 見上げようと―― グイッ!! 「!?」 ルイズが顔を上げようとした瞬間、ギアッチョの手によってルイズの頭は 下に押し戻された。 「・・・出たんだろ?ルイズ このガキとぶつかった時に・・・『鼻血』がよォォ そんなみっともねーツラをこいつらに披露してやるこたぁねーぜ」 いつの間にか3人の周りには人だかりが出来ていた。そしてルイズは ハッと思い出した。自分の顔が、涙でぐしゃぐしゃだったことを。 本気だ。ギアッチョは、本気で私の為に行動してくれている。 ルイズはようやく気付いた。 ――ギアッチョは・・・私の味方なんだ・・・ こんなことになっても・・・ ギアッチョは味方でいてくれるんだ・・・! 我知らず起こる肩の震えを、ルイズは止めることが出来なかった。彼女の 宝石のような瞳から、今度こそ堰を切って溢れてきた涙と同様に。 「それで?そこのゼロのルイズの代わりに、平民の使い魔が僕の相手を 務めるっていうのかい?」 ギーシュはニヤニヤと笑ってギアッチョを見ている。 「さっきハッキリそう言ったはずだが・・・聞えなかったってワケか? え?マンモーニ ミミズを狩るのに獅子を使うのはちと贅沢だが・・・ 今回だけの特別サービスってことにしてやるぜ」 最初はヘラヘラ笑いながら聞いていたギーシュだが、次第に自分が 完全に下にみられていることに気付くと烈火の如く怒りだした。 「だッ・・・!誰がママっ子だって!?平民の分際でッ!よくも貴族に そんな口が利けたもんだね!!一つだけ言っておくが・・・決闘で 死んだとしてもそれは合法だ!!手加減してやるつもりだったが・・・ 無事にゼロの元へ戻れると思わないことだねッ!!」 ギーシュは忘れていた。昨日、自分達を縮み上がらせた彼の殺気を。 そしてルイズの爆発を恐れて遠巻きにサモン・サーヴァントを見ていた 彼には、ギアッチョがルイズを殺しかけたあの場面はせいぜい 「混乱した平民がゼロのルイズを押し倒した」程度にしか見えなかった のである。 ギアッチョが色をなくしたままの眼でギーシュを睨む。 「ならこっちも一つ聞くがよォォ~~ てめー『覚悟』はしてるん だろうなァ~~?オレを殺すつもりで来るってことはよォォ 逆に殺される『覚悟』は出来てるっつーワケだよなァァァ」 しかしギーシュは鼻で笑って答える。 「フン!覚悟だって?そんなものする必要はないね 何故なら 僕が負けるなんてことは万が一にも有り得ないからだ」 ギーシュの大見得にギャラリーがどっと笑う。 「そうだそうだ!」 「平民相手に遠慮するこたねーぞギーシュ!」 「身分の差ってものを教育してやれ!」 こいつらは――、とギアッチョは考えた。 ――こいつらの殆どは・・・昨日のことなんか見てもねぇし 覚えてもいねぇようだなァ~~・・・ 「ま、どっちだろーと関係ねーがな」 相手が化け物であろうと歩き始めたばかりの赤ん坊であろうと、 ギアッチョの「覚悟」に変わりはない。「覚悟」とは相手に合わせて コロコロ変えるものではない!ギアッチョはそう理解していた。 「今から5分後・・・ヴェストリの広場で待っている 言うまでもない 事だが――君が逃げれば君もゼロのルイズ同様直ちにこの 学院から退去してもらうよ せいぜい震えながらやってくるんだね」 ギーシュはそう言い放つと、ニヤニヤ笑いのまま去っていった。 ギーシュが去ると、3人を取り巻いていたギャラリーもギーシュと 一緒に広場へ向かっていった。 「ルイズ もういいぜ 頭を上げな」 ギアッチョが声をかけると、ルイズはごしごしと顔をこすって 立ち上がった。 「・・・ギアッチョ・・・」 ギアッチョは首をコキコキと鳴らしながら尋ねる。 「ルイズよォォ~ なんとかの広場ってのはどっちだ?」 「え・・・ あ、あっちよ ・・・あの、ギアッチョ・・・・・私」 ルイズが何か言おうとするが、 「話は後回しだ 5分後だからな・・・別にあいつをいくら待たせよーが 心は痛まねぇが 逃げたと思われるのも癪だからよォォ」 ギアッチョはそれを制して歩き出す。――逆の方向へと。 「・・・ギアッチョ?広場はあっち・・・」 「ルイズ おめーは先に行ってな オレはよォォ~ ちょっと 用事があるもんでな・・・ 待ってろ すぐにそっちに行く」 そうルイズに告げて、ギアッチョはどこかへ歩いていく。 「分かった ・・・待ってる」 もはやルイズは、万が一にもギアッチョの逃亡を疑わなかった。 私の為に戦ってくれるギアッチョの為に、自分に出来ることを しよう。ルイズはそう決意した。ギアッチョが戻ってくるまで、 逃げず、怯えず、うろたえず、ヴェストリの広場で待っていよう。 ルイズはスッと顔を上げると、広場に向かって駆け出した。 目的地に向かって歩くギアッチョの後ろから、「待ちなさい!」 という声がかかった。 「わりーが・・・後にしな 今は少々忙しいんでな」 しかし声の主はかまわず叫ぶ。 「あなたルイズをどうする気ッ!?」 その言葉を聞いて、ギアッチョはピタリと足を止めた。 「どうするつもりたぁ失礼なことを言うじゃあねーか ええ?おい」 肩越しに後ろを振り返ると、そこにいたのはあの赤髪の少女、 キュルケだった。 キュルケはさっきの騒ぎを最初から見ていた。二人の争いが いい加減ヤバくなってきたら仲裁に入るつもりだったのだが、 彼女の先を越して二人を仲裁したのは――更に酷いことになったが―― 意外にもギアッチョだったわけである。ルイズ共々殺されかけたキュルケが それを不審に思わぬはずはなかった。 「召喚されてそうそうあの子を殺しかけたと思ったら今度は 手のひら返したように責任を取るですって?」 キュルケは信じられないという風に首を振ると、キッとギアッチョを ねめつける。 「答えなさいッ!あなたは何者!?そしてルイズに何をする気!?」 ギアッチョはしばらくキュルケを見ていたが、やがて口を開いた。 「確か・・・てめーの家とルイズの家は・・・宿敵同士だと聞いたが」 「・・・あなた学校で習わなかったの?質問を質問で返すんじゃあ ないわッ!」 キュルケの眼は「マジ」だった。ギアッチョは小さく舌打ちをすると、 「オレが何者なのか・・・話してやってもいいが それには少々時間が 足りねーー 二つ目の質問にだけ答えてやる」 そう言うとギアッチョはキュルケに向き直る。 「答えは『別に何も』、だ ただし・・・これだけは言っておくぜ 命の恩人が侮辱されてるのを・・・黙って見ているバカはいねえ!」 「――!!」 昨日ルイズを殺そうとした男が、そして今日人目もはばからず 食堂で大暴れした男が、果たして本気で言っているのだろうか? キュルケには判断が出来なかった。ただ―― 「・・・今はその言葉で納得しておいてあげるわ」 もう少し様子を見てもいいか、とキュルケは思った。 「・・・あ、待って!」 再び背を向けて去ろうとするギアッチョに、キュルケは何かを 思い出したように声をかけた。ギアッチョは振り向かないが、 話を聞く意思だけはあるようだ。 「・・・用心なさい ギーシュはあんなのでもうちの学年じゃ かなりの上位に入る腕前よ」 ギアッチョがやられてしまえば、ルイズの人生はおしまいだ。 魔法が使えないまま使い魔を殺されて退学だなんて、ルイズで なくとも自殺を考えるほど最低最悪の事態である。しかし キュルケの忠告を、ギアッチョは鼻で笑って受け流す。 「フン・・・あのマンモーニが強かろーが弱かろーがよォォー オレには関係のないことだぜ」 「あなたフザけてるの!?ギーシュはナメてかかって勝てる 相手じゃ・・・」 「『覚悟』はッ!!」 ギアッチョはいきなり声を張り上げる。その大声にキュルケは 思わず身構えた。 「・・・オレの『覚悟』は・・・相手を選んだりはしねえーーッ! 相手がドラゴンだろーがウジ虫だろーがよォォ~~ オレは同じ 『覚悟』を持って戦いに挑むッ!!」 それだけ言うと、ギアッチョは圧倒されているキュルケを置いて 歩いていった。 「なんなの・・・あいつ・・・ 『覚悟』・・・・・・?」 「大丈夫」 突然聞えた声にキュルケが隣を見ると、いつの間に来ていたのか そこには透き通るような青い髪をした少女、タバサがいた。 「大丈夫・・・って?」 「昨日の戦闘」 タバサは短く言葉を繋ぐ。 「まだまだ力を隠してた」 「嘘でしょ・・・」 タバサの言葉は信頼出来る。キュルケは今更ながらギアッチョに 立ち向かった昨日の自分を思い出し、ゾクリと身震いした。 当たりをつけて覗いてみた食堂で、ギアッチョは目当ての 人物――シエスタを発見した。 「・・・あ、ギアッチョさん!ミス・ヴァリエールはご無事でしたか?」 メイド服の少女は食器を片付けながらギアッチョに声をかける。 デザートの配膳中にギーシュと言い争うルイズを発見し、いち早く ギアッチョに知らせたのはこのシエスタだった。 「ああ なーんにも問題はねえぜ」 「そうでしたか」 よかった、と答えて食器の片付けを続けるシエスタに、 「それはともかくよォォ~~ 一つ報告することがあってな」 ギアッチョは本題を切り出した。 「報告・・・ですか?」 「ああ まぁ大した話じゃないんだがよォォ~~~ 決闘することになった」 「・・・決闘・・・?」 ギアッチョの言った決闘の意味を量り切れないらしく、シエスタは オウム返しに同じ言葉を口にする。 「ええと・・・決闘って 誰と・・・誰がですか?」 「ああ? 誰ってオレに決まってるじゃあねーか 相手はルイズに 絡んでた・・・あー・・・そうだ、ギーシュとかいうマンモーニだ」 ・・・・・・。 どこかで見たような一瞬の沈黙の後、 ガッシャアアアアアアン!! シエスタの手から滑り落ちた3枚の皿が音を立てて砕けた。 「な、ななな何をやってるんですかギアッチョさんッ!! き、貴族と決闘だなんて 殺されてしまいます!!」 状況を理解した途端パニックに陥るシエスタをギアッチョは 片手で制して、 「落ち着けよシエスタよォォォ~~~ 死ぬのはギーシュの野郎 だぜ・・・それは決定してる オレが言いてーのはその話じゃあ ねーんだ」 口では軽く言っているが・・・ギアッチョは決して決闘を甘く見て いるわけではない。経過がどうなろうと、必ず「ギーシュを殺す」 という結果を出す。ギアッチョはそう「覚悟」しているのだ。 「シエスタ 今からよォーー 厨房の奴らを全員連れて・・・なんだ、 ヴ・・・ヴェ・・・ヴェラ・・・違うな、ヴォ・・・ヴァ・・・ヴァンダム・・・」 「・・・ヴェストリの・・・広場ですか・・・?」 「多分そいつだ そこまで来ちゃあくれねーか?咎められるよーなら 責任は全部オレが持つ」 シエスタはこの人なりの冗談なのだろうかと思った。しかしギアッチョの 眼は、悲しいほどに本気であった。 「決闘にゃあオレが勝つ・・・そいつは間違いねーんだが 別の意味で お前らを失望させちまうかも知れねえ・・・ しかしオレとお前らが同じ『平民』だと言うのならよォ・・・ こいつを 見せねーわけにゃあいかねーんだ」 さっきと同様、シエスタはギアッチョの言葉の意味を量りかねて いるようだった。しかしギアッチョはそんなシエスタの心中を忖度せず、 「頼んだぜ」とだけ言って食堂を出て行く。シエスタは一瞬逡巡したが、 「ま、待ってください!!」 やはりここでギアッチョを見送るのは、自分が殺すも同然だと思った。 「今日はよく後ろから呼び止められる日だなァァ~~ え?おい 決闘するなってんなら聞かねぇぜ 何度も言うがよォォーー オレの勝利、それだけは決定してるんだ」 「ギアッチョ・・・さん・・・」 そう言い放つギアッチョに妙なスゴ味を感じたシエスタは、それ以上 何も言うことが出来なくなった。 「おっと・・・もう決闘が始まる オレは先に行くぜ」 言うがはやいか、今にも泣き出しそうな顔のシエスタに目もくれず、 ギアッチョは食堂を飛び出して行ってしまった。 ルイズはギーシュと対峙していた。 「フフフ・・・あと大体30秒だが・・・君の使い魔はどこにいるのかな? ゼロのルイズ君」 ギーシュが心底哀れそうな声で――勿論演技だが――ルイズに語りかける。 「君の使い魔・・・随分とキレるのが早いようだが 逃げ足も速いようだねぇ プッ・・・ハハハハハ」 ギーシュはニヤニヤと笑う。それを聞いたギャラリー達もドッと笑っている。 「ギアッチョは来るわ」 ルイズはギーシュの眼を睨んだまま、短くそれだけを返す。例えどれだけ 笑われようが、どれだけなじられようが――ギアッチョは自分に待っていろと 言ったのだ。ならば自分は彼を信じて待つだけだ。 ――そうよ・・・、これが今の私があいつに返せる唯一の敬意 ならばどんな 侮辱だろうと罵倒だろうと・・・全て受け切ってみせるわッ! ルイズは知らず知らずのうちに『覚悟』していた。ギアッチョが来るまで、何が あろうと崩れないという『覚悟』を! ギーシュはなおも続ける。 「1分経過だ!おいおいゼロのルイズ!!いつまで僕らを待たせるつもりだい? 僕らだって暇じゃあないんだ!ほらほら、怖がらないで杖を取ってかかってきなよ! あの平民はもう森の中まで逃げてるかもなあ!ひょっとしたらもう森をうろつく 魔物に食われてしまっているかも!」 ギーシュの発言にギャラリーはまた爆笑する。キュルケは歯噛みしながらそれを 見ていたが、ルイズの眼に何の迷いも浮かんでいないのを知って飛び出したい 気持ちを抑えた。 ――あれが、あの平民が言っていた『覚悟』というやつなの・・・? キュルケのそんな疑問に答えるかのように、 「ギアッチョは・・・来るわ・・・!」 ルイズはただそれだけを繰り返した。そして・・・、 「やれやれ・・・ちょっとしたロスがあってよォォ~~~ ちぃとばかし遅れちまった みてーだなァァァ」 ざわつくギャラリーを掻き分けて、ギアッチョが姿を現した。 一秒たりともギーシュから眼をそむけなかったルイズは、そこでようやく全身の 力を抜いた。 「どーやら・・・頑張ってたみてーじゃあねーか え?ルイズ 後はオレに任せて そこで見てな」 またも意外なギアッチョのねぎらいである。 「お、遅いわよバカッ!」 などと照れ隠しに文句を言いながら、ルイズは非常な達成感と安心感を感じていた。 するとそこへ、 「ミス・ヴァリエール!!」 シエスタを先頭にマルトー達厨房の料理人や給仕達が駆けつけてきた。 「えーと・・・あなたは確かシエスタ・・・ こんなに大勢引き連れてどうしてここに?」 「分かりません・・・さっきギアッチョさんが食堂にやってきて 決闘をするから 見に来て欲しいと・・・」 「そう・・・ ・・・まさかあいつ・・・」 ルイズは理解した。ギアッチョはシエスタやマルトー達と対等に向き合う為に、敢えて スタンドを見せることを決意したのだ。メイジだと――貴族だと思われる危険を冒して。 今、ギアッチョはそれほどまでに仲間というものに惹かれていた。 「ようやく来たようだねぇ面白頭君 てっきりもうアルビオンあたりまで逃げ出してる んじゃあないかと思っていたよ」 ギーシュは心底愉快そうに言った。アルビオンとやらがどこにあるかは勿論知らな かったが、その挑発のあまりの陳腐さにギアッチョはキレる気にもならなかった。 「逃げる?今逃げるっつったかァ~てめー?こいつは傑作だな!ええ?おい!」 わざわざギーシュがルイズに使った言葉でギアッチョは罵倒を返す。 「このギアッチョがてめー如きに逃げる必要なんざ全宇宙を探したって見つかり そうにねーもんだがよォォォーーー 見つかるのはせいぜいてめー相手の決闘を 『やめてやる』理由ぐれーだぜ ええ?オイッ!」 ギャラリーから失笑が漏れた。ギアッチョはそのまま続けてギーシュを挑発する。 「今ここでよォォ~~~ 土下座をしてルイズに謝ってから学院を出て行きな! そうすりゃあ『命までは』とらないでおいてやるぜマンモーニ!!ええ!? やってみろよおい!!ああ!?」 ギーシュがルイズに言ったことをちょっとグレードアップさせただけのその挑発に、 ギーシュの怒りはいともたやすく爆発してしまった。 「きき、貴様ぁああーーーーッ!!!もう命乞いをしたって許さないぞッ!! 今ッ!!決闘を開始するッ!!!泣いて詫びろ平民がァーーーーーッ!!!」 「ハッ!てめーが言ったことを言い返されただけで面白いよーにキレてくれる じゃあねーかマンモーニッ!!少なくともてめーの薄っぺらくて小汚ェ精神 よりゃあよォォーー このルイズのほうがよっぽど上等な魂を持ってるぜッ!!」 ギーシュが懐から乱暴に造花の薔薇を取り出すと同時に、ギアッチョの双眸が スッと色をなくし――2人の決闘が始まった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/458.html
ゼロの究極生命体 序 第壱話 究極生命体 召還 第二話 究極な使い魔 誕生
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/270.html
「うーん…」 ルイズはベッドの上で目を覚ました。 どう見ても自分の部屋だ。 しかし何か違和感があった。大事なことを忘れているような気がしてならない。 ベッドから体を起こし背伸びをする。外は明るい。いつもの朝だ。 とりあえず顔を洗い、着替えて、鏡を見て身だしなみを整える。 欠伸をした時、ふと、鏡に誰かが映ったような気がした。 「…?」 ルイズは訝しげに部屋を見渡すが、自分以外は誰もいない。 目の錯覚だろう。そう考えたルイズは眠気が残ったまま部屋から出たが… 廊下を歩く同級生達と、その傍らを歩いたり飛んだりしている使い魔達を見て、 一瞬で目が覚めた。 「あーーーっ!」 ルイズの突然の叫びに一部の臆病な使い魔達が驚いているが、 同級生達にとっては、ルイズの失敗魔法ほどの驚きはなく、またかと言った表情でルイズの前を通り過ぎていった。 と、廊下にある戸がひとつ開く。中から出てきたのは褐色の美女、兼同級生、兼宿敵のキュルケだった。 「朝から騒がしいわねえ、どうしたのよ」 「…………」 放心状態のルイズにかまわず続ける。 「それにしても昨日のうちに召喚出来ないなんて残念ねえ。あ、そうそう、私の使い魔を見せて無かったわよね。この子が私の使い魔、フレイムよ」 キュルケの背後から現れたのは尻尾に火が点いた巨大なトカゲだった。 「火竜山脈のサラマンダー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」 「………」 呆然としながらも、視線をフレイムに向けるルイズ。 それを見てキュルケが、今度は馬鹿にした含みを持たず素直に心配する。 「ちょっとあんた大丈夫? まだ時間はあるんだから、サモン・サーヴァントが成功するまで頑張んなさいよ」 「…あんたが同情するなんて、何よ、今日は雪?」 「なに言ってんのよ。『ゼロのルイズ』がどんな使い魔を召喚するのか楽しみなのよ」 クスリ、と何かを含んだような笑みを見せるキュルケに、思わず怪しむような視線を向けてしまう。 「あ、そうそう、あんた後でタバサにお礼言っておきなさいよ。倒れてたあんたを見つけて連れてきたのはあの子と…あの子のドラゴンなんだから」 そう言って、フレイムを連れたキュルケは食堂の逆方向へと歩いていった。 サラマンダーは種類によってはドラゴンに匹敵する使い魔として、高い能力を持つと教わった。 きっと、フレイムを見せびらかすために遠回りして食堂に行くのだろう。 それに比べて自分は使い魔を持つどころか、召喚に失敗。 その上ドラゴンを召喚したメイジもいると聞いて、あまりにも情けない自分に目眩がした。 朝食を取るために食堂に入る。もう既にほとんどのメイジ達は席に着いていた。 先生と生徒を含めた沢山のメイジ達が、ひとときの談笑を楽しんでいた。 周囲から聞こえてくる会話は使い魔の話ばかり。 今年はどんな種族が多かったとか、一番強そうなのは何だとか。 上級生である3年生は使い魔の値踏みを。 下級生である1年生は、使い魔を召喚した二年生への憧れを話し、 同級生である2年生は自分の使い魔自慢をしている。 召喚出来なかったルイズは、自分がバカにされるのを覚悟していたが、 皆自分の使い魔のことで頭がいっぱいらしく、自分のことを噂しているような声は聞こえなかったが、なぜか寂しい気がした。 しばらくして、朝食を終えた生徒達が教室へ移動を始める。 ルイズも教室へと移動し、適当な席に座った。 教室にはクラスメイトが召喚した様々な使い魔達がいて、少し騒がしい。 しばらくすると、土系統のメイジであり教師でもある『赤土のシュルヴルーズ』 がやって来て、授業が始まった。 授業は一年のおさらいと、練金に関する内容だった。 『火』『水』『土』『風』『虚無』 この手の話は、何度も何度も聞かされていた。 もう使い手の居ない伝説の属性『虚無』 ある者はそれに憧れ、ある者はそれを伝説だと笑う、 『ゼロのルイズ』とあだ名されるルイズにとって、『虚無』の魔法が伝説だと言われ笑われるのが、自分への皮肉にも聞こえた。 授業は進み、退屈な時間が過ぎていき… ルイズは、机に突っ伏して眠ってしまった。 『………!』 『…倫……』 『…!……徐………倫…!』 「ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 「授業中の居眠りとは何事ですか!」 突然の声に驚き、ルイズは飛び起きた。 こっちを睨んでいる声の主を見て、自分が居眠りしていたことに気づき、ルイズは慌てて謝った。 「す、すみません!」 「…それに、なんですか、その顔は。 練金をあなたにやってもらおうと思いましたが、それ以前の問題ですね。 早く顔を洗ってらっしゃい」 「はい…」 力なく答えて教室を出て水場に行く。水場に備え付けられた鏡で顔を見て、 やっと自分が泣いていたことに気付いた。 なんで泣いたのか分からなかったが、一つだけ思い当たることがあった。 夢の中でルイズは誰かと闘っていた。 その戦いの中で、敵を倒すか、娘を助けるかの二者択一を迫られたのだ。 一瞬の葛藤。けれども深い葛藤の末に、娘を助けることを選んだわたしは、 敵に切り裂かれて…そこで目が覚めた。 この涙は、敵を倒せなかった無念ではなく、娘の無事を願っていたのでは… 思わず涙を流しそうになり、それを誤魔化すかのように顔を洗った。 前へ 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/581.html
浮かぶ雲によって太陽が遮られた草原の真ん中で、少女は呆然と目の前の地面を見つめていた。 周りからは先程までの喧騒が消え、異様な静寂で満ちている。 何回も失敗を重ね、他の生徒に嘲笑されながらもやっと「サモン・サーヴァント」に成功した その少女、ルイズ・フランボワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの前には、彼女が今召喚したばかりの使い魔がいた。 しかしその使い魔は、彼女が望んでいたドラゴンやサラマンダーなどの幻獣の類ではない。 また、烏や梟、猫や大蛇などの普通の動物でもなかった。 彼女が使い魔として呼び出したもの、そう、それは―――― 植木鉢に植えられた、一本の『草』だったのだ。 「…………何なのよ、これ」 彼女の呟きは、静寂の中を悠々と横切る風に流されていった。 使い魔はゼロのメイジが好き 第一話 何故使い魔を呼ぶ神聖なる儀式「サモン・サーヴァント」で単なる『草』が召喚されたのか、 そしてこれは、一体何なのかというルイズの疑問は、 「…………ぶあっははははははははは!!」 彼女の召喚を見ていた生徒の一人が発した笑い声によってかき消された。 ガラガラ声で笑い続ける彼はその手でルイズを指さし、可笑しくてたまらないというような声で喋り出す。 「流石は『ゼロ』のルイズだぜ!召喚の儀式でただの草を呼び出すなんてよ!」 その声で我に返ったほかの生徒は、彼に同調するように笑い出す。中には、ルイズに罵声を浴びせる者までいた。 「そうよ、珍しく成功したと思ったらこれだもの」 「使い魔ぐらいきちんと呼べよ、ゼロのルイズ!」 「どういう事だよッ!クソッ!草って、どういう事だッ!魔法ナメやがってクソッ!クソッ!」 「……ちょっと間違っただけよ!失敗なんかしてないわ!」 彼らの嘲笑混じりの罵声に、彼女は耳まで真っ赤にして反論する。 そして後ろを振り返り、儀式の監督を行っていた教師に叫んだ。 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しをさせて下さい!」 すると、生徒達の間からローブを纏った頭髪が寂しい男が姿を現した。その表情は困惑しきっている。 彼こそが儀式を監督していた教師、コルベールだった。 「うむ……これは……」 滅多に見ない彼の困った表情を見て、ルイズはもう一度チャンスが貰えるかもしれないという淡い期待を抱いた。 だが、その期待は次の言葉により砕かれることになる。 「いや、それは駄目だ。どんなものを呼び出そうと、召喚だけはやり直す事は出来ない」 その返答に、ルイズは少し苛立つ。やり直せないならどうすればいいのだ。こんな草が使い魔になっても、一体何を してくれるというのだろうか。 いつのまにか出てきた太陽に照らされて、強く輝く彼の頭。それを見るも無残な事にしてやろうか、そんな事を考えている間も コルベールの話は続いていた。 「君も分かっているだろうが、今回呼び出した使い魔で今後の……」 そこまで話したところで、唐突に彼の言葉が止まる。 想像の中で彼の頭の焼畑農業を行っていたルイズも、それに気付いて顔を上げた。 「どうかしましたか?ミスタ・コルベー…」 「み、ミス・ヴァリエール!君、あの『草』に何かしたか?」 その視線はルイズの方には向いていない。ルイズの後ろ、さっき召喚した草の方に向けられていた。 コルベールの顔からはさっきまでの困惑が吹っ飛び、ただ驚きと狼狽の色だけが浮かんでいる。 「『草』ですか?別に私は何もしてませんけど」 急に変わった彼の表情を、彼女は訝しみながら質問に答える。あんな草の何に驚いているんだろう、この人は。 「ならッ!ならあれは何なんだミス・ヴァリエール!答えなさい!」 彼の表情が「驚き」から「焦り」に変わった。まるで、信じられないものでも見たかのように。 その表情に圧倒され、ルイズも後ろを振り返る。半分はこの男に対する呆れの気持ちで、そしてもう半分は恐れの気持ちで。 そして彼女は、本当に信じられないものを見る。魔法を自由に扱うメイジでさえ、思わずうろたえるものを。 後ろを振り返って草を見たルイズ、その鳶色の瞳が瞬時に驚きと困惑、そして恐怖に塗り替えられた。 彼女が呼んだ『草』――――さっきまで確かに萎れて土の上に倒れていたはずの『草』が、起き上がっていた。 言葉さえも出ないルイズとコルベール、そして事の異常さに気付いた生徒達が見守る中、その草はゆっくりと起き上がる。 乾いた地面に水が染み込むように、ゆっくりと、だが力強く。 そして完全に起き上がった『草』は、一度大きく震えると、人間でいう『頭』のような部分を持ちあげる。そこには、猫のような 目と口が存在していた。 不意に、生徒達の一群がどっと崩れた。未知の植物に恐怖した生徒が、この場から逃げ出そうとしたらしい。 逃げようとした生徒と留まろうとした生徒が入り乱れ、たちまち辺りは混乱した。 そんな混乱を愛らしい二つの瞳で見つめながら、この世界に召喚された『猫草』は、そんなの関係ないねとでも言うように 小さな欠伸をして、ウニャンと鳴いた。 To Be Continued...?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/657.html
ルイズの前に緑色の鏡のようなものが出現した。 それを見て、周りにいた生徒達はびっくり仰天。 「馬鹿なッ! 奴はゼロのルイズだぞ!?」 「あ、あれは召喚が成功した証だ!」 「いったい何が! ゼロの使い魔はいったい何が出てくるんだ!?」 そんな叫び声を聞きながらルイズは唇がニヤけるのを必死にこらえていた。 (や、やった! ついにやったわ! サモン・サーヴァントに成功した! もう誰にも私をゼロだなんて呼ばせない。勝ったッ! ゼロの使い魔完! さあ早く姿を現して! どんな使い魔だろうと私は大歓迎よ!) そして、それは現れた。 第一印象を述べるならば、小さい。 第二印象を述べるならば、長方形。 第三印象を述べるならば、生き物じゃない。 それはゲートから出てくると、ポトンと地面に落ちた。 「……何、これ?」 ルイズはそれを拾い上げる。それは紙に包まれた硬い何かだった。 紙にはこう書かれていた。 『CIOCCOLATO』 その後、チョコラータというお菓子がハルケギニアで大流行する事になるのだがそれはまた別の話。 その頃、日本にて。 「ああ! 変な鏡みたいなやつの中にイタリア製のチョコレートを落としちまった! 畜生うまそうだったのに……楽しみにしてたのに……グッスン」 こうして平賀才人は帰路に着いた。 ゼロのチョコラータ 完
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/406.html
―眼を開いた時、彼の眼に飛び込んできたものは満天の青空だった。 青空・・・? バカな・・・オレはさっき死んだハズだ 延髄を「ブッ刺されて」よォォ・・・! そうだ、覚えている・・・奴らの『覚悟』に負けたことを 「―何だァ~?・・・っつーことはよォォ・・・ ここは天国・・・いや 地獄ってわけかァ?」 爆風の中から現れた男はよく解らないことを呟いている。それを認識したルイズは、しかしその認識を疑わざるを得なかった。 爆風の、中から、現れた、男? 男・・・つまり人間。人間・・・つまり? 現れた男は・・・どうみても貴族には見えなかった。つまり。 平民。平民を召喚してしまった。 「冗談でしょ・・・?」愕然として呟くルイズに、周囲から更に追い討ちがかかる。 「あいつ、平民を召喚しやがった!」 「サモンサーヴァントで平民を召喚するなんて聞いたことないぜ!」 「流石はゼロのルイズ!俺たちに出来ないことを平気でやってのけるッ!」 「そこにシビレないし憧れもしない」 しかしルイズはそれに怒るどころではなかった。強くて美しい使い魔を召喚すれば、散々自分を バカにしてきた奴らを見返すことが出来る。家族に胸を張って会うことが出来る。 彼女はそれを期待していたし、自分ならきっと召喚出来るという根拠の無い 自信もあった。それが、こんなヘンな髪型の平民を召喚してしまうなんて! ―とりあえず、彼は状況を把握することにした。 「城・・・いや砦か?よくわからねーが・・・ここはその中庭って所か? いよいよ天国じみてるじゃあねーか!ええおい?」 そこまで考えて彼は前方を見る。ド派手な髪の少女がそこに立っていた。 「・・・天使にゃあ見えねーな」 そして彼はふと思いつく。もしかしてこれはスタンド攻撃ではないか?既に死に体だったはずの自分をわざわざ攻撃してくる理由など無いとは思ったが、警戒するに越したことはないと彼は判断した。 ルイズは覚悟を決めて―というよりは全てを諦めて―男に話しかけた。 「・・・あんた、誰?」 ドグシャアア!! 言い終わる間もなくルイズは首根っこをつかまれ、そのまま地面に叩きつけられた。 「いっ・・・!!な・・・何をするのよ!貴族にこんなことをしてただで済むと・・・ 痛ッ!?」 叩きつけられたものではない―焼け付くような擦り切れるような名状しがたい痛みを感じて、ルイズは首をつかんでいる手を見る。 「何よこれ・・・ まさか・・・魔法・・・!?」 男の手を中心に、ルイズの体は首から胸にかけて完全に凍っていた。 「ここはどこだ?てめーはオレに何をした?3秒で答えな・・・首をブチ割られたくないならよォォ」 ルイズは一瞬で理解した。冗談で言っているんじゃあない、こいつの眼にはやると言ったらやるスゴ味がある! 「こっ、ここはトリステイン魔法学院で!あんたは私が召喚したのよ!!」 ・・・ 数瞬の沈黙が流れ。 「魔法だと?てめー・・・イカレてるのか?それともバカにしてんのかァァ~?」 「う、嘘じゃないわ!ここはトリステイン王国のトリステイン魔法学院であなたは私が サモンサーヴァントで召喚した使い魔なの!!」 「・・・つまり ここは魔法の学校で てめーはオレを魔法で呼び出したってワケか?ガキ」 「そっ、そうよ!解ったのなら早く手を―」 「・・・ブチ・・・割れな・・・」 「なッ!?」 尋問は失敗、このガキは死んでもオレに何かを喋る気はねーらしい。男はそう判断したようだった。しかし首に力を入れようとしたその時、男の鼻先をかすめてサッカーボール大の火球が地面に激突した! 「何だァァ~?スタンド攻撃かッ」 男が火球の射出地点とおぼしき場所に眼を向けると・・・そこには燃えるような長髪の少女がいた。 「何だかよく分からないけど・・・あなた、その子から手を放しなさい!さもないと容赦しないわよ!」 「キュ・・・キュルケ・・・」 バッ! 「容赦しねェだとォォ~~?なめてんのかァーーッこのオレをッ!!」 男がルイズを投げ捨てて立ち上がると、その体からは壮絶な冷気が噴き出しはじめた。 「いいだろう てめーら全員氷づけにしてからゆっくり尋問するのも悪かねーッ」 そして男は自らの力を―スタンドを、発現させる。 「ホワイト・アルバムッ!!!」 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2461.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「そろそろ朝食の時間ね、あんたもついてきなさい。」 とルイズが言うので、彼女について康一は部屋を出た。 すると丁度康一の左手のドアが開いて、女の人が出てきた。 「(あっ、昨日の女の人だ)」 と、康一は気づいた。 炎のような真っ赤な髪と褐色の肌。ルイズと同じ服装(たぶん魔法学院ってやつの制服なんだろう)なのに、上のボタンを大きく開けて豊満な胸を露出しているせいかずいぶんと印象が違う。 ルイズが『美少女』ならばこちらは『美女』だろう。とびっきりの、とつけたいところだ。 康一はついつい胸元に目が行きそうになるのをこらえた。 「(だ、だめだだめだ!こんなところ由花子さんに見られたらどんな目にあうか!)」 付き合うようになってからの由花子は、暴力で康一をどうこうすることはなくなった。 だが、代わりにあの気の強そうな目を細めてずっと康一を睨むのである。 ・・・もう由花子さんには会えないのかなぁ・・・。 康一は切なくなった。 康一は切なくなった。 『美女』はこちらに気づくとにこりと笑った。 「おはようルイズ。昨夜は楽しめて?」 「た、楽しんでなんてないわよ!あれは使い魔の持ち物をチェックしてただけなんだから!勘違いしないでよね!」 「まぁ、あなたの恋路には口を挟む気はないわ。それより・・・」 ルイズが「恋路って何よ!色ボケキュルケ!」と叫ぶのを無視して、キュルケは康一のことをじろじろと眺めた。 「な、なに?」 康一はこんなに色気のある人と出会ったのは初めてだったので、目のやり場に困って顔を赤くした。 「ふーん・・・ホントに人間じゃない!人間を使い魔にするなんて、さすがはゼロのルイズ!」 ルイズはむっとした。 「うるさいわね。私だって好きで平民を呼び出したわけじゃないわよ!」 ぼくだって好きで君に召還されたわけじゃないよ!と康一は思ったが口には出さなかった。 「あたしも昨日使い魔を召還したのよ?どこかの誰かさんと違って一発で成功したわ。」 そういうと、キュルケの部屋からのそりと大きな何かが姿を現した。 「うわぁ!」 康一は飛びのいた。 真っ赤なトカゲである。それだけなら一向に構わないのだが、その大きさが虎ほどもあった! 四つんばいなのに頭が康一の胸の高さにある。なぜか尻尾の先が松明のように燃え上がっており、むんという熱気が康一のところまで届く。 使い魔といわれて犬とか猫とかネズミとかを想像していた康一は悲鳴をあげた。 「そ!それなに!?」 「あたしの使い魔・・・『火トカゲ』のフレイムよ。見て!この大きさ!鮮やかな炎!わたしにぴったりの使い魔だわ!」 「あんた『火』属性だもんね。」 ルイズは苦々しく言った。 「ええ、あたしは『微熱』のキュルケ。ささやかに胸を焦がす情熱の炎よ!」と胸を張った。 さらに突き出した胸に、康一はごくりと生唾を飲み込んだ。これはさぞやモテることだろう。 キュルケは腰を屈め、康一に顔を近づけた。大きな胸がさらに強調されて、康一はドギマギした。 「それで・・・あなたのお名前は?」 「ひ、広瀬康一・・・」 「そう。変わったお名前ね。あたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。」 そして康一の耳元に唇を近づけて言った。 「あたし、あなたに興味があるの。また今度二人きりでお話したいわ・・・」 「はわわわわ・・・」康一は顔を真っ赤にした。 「ちょっと!わたしの使い魔になにしてんのよ!!」 ルイズが二人をぐいっと引き離す。 「あら、独占欲?力ずくは醜いわよルイズ!」 「違うわよ!この色ボケ!!行くわよ、平民!」 康一の襟を引っつかんでずるずると引き摺っていく。 「わ、わぁ。ちょっと!歩く!歩くから!」 康一は引き摺られながら悲鳴をあげた。 「またね~~♪」 キュルケは満面の笑顔で手を振って見送った。 「ほんとにもう!ツェルプストーなんかにデレデレしてっ!この馬鹿犬!」 ついに犬に格下げですかぁー!?もう怒る気も失せる。 「あの人と仲悪いの?」 「ヴァリエールとツェルプストーとは先祖代々犬猿の仲なのよ。」 ルイズは歩きながら説明した。 要するに、ルイズのヴァリエール家とキュルケのツェルプストー家はトリステインとゲルマニアっていう二つの国の国境沿いで領地を接していて、代々何かと戦ってきた間柄らしい。 しかもなぜかいつも恋のライバルでもあったようで、代々ヴァリエール家は代々ツェルプストー家に恋人を取られ続けてきた歴史があるのだという。 「なんとなく想像つくなぁー」 康一はちらりとルイズを見た。 ものすごくきつい性格のルイズと比べて、あっちのキュルケは包容力がありそうだ。 それに何より、ストーン!としたルイズとボイーン!としたキュルケ。 ふらふらとあちらに行きたくなったヴァリエール家ご先祖様達の気持ちが康一にも分かる気がした。 「・・・なによ。」 ルイズがじろりと睨む。 「いーえ・・・なんでも・・・・」 康一は目を逸らした。 「うわぁ!すごい豪勢だなぁ!!」 康一は目を輝かせた。 ここは『アルヴィーズの食堂』。トリステイン魔法学院の貴族は、みなここで食事をとる。 学院の中で最も高い、真ん中の本塔の一室にある食堂は、驚くほど広い空間だった。 学校の体育館ほどの広さがあるだろうか。だが、これだけ広いのに、イタリアで見た教会の大聖堂ような荘厳な雰囲気を漂わせている。 3列に並べられた長い長いテーブルには真っ白なテーブルクロスがかけられ、その上には燭台が並べられ、フルーツの篭やでかい鳥のロースト、ワインや鱒の形をしたパイなどが所狭しと並べられている。 ゴクリ・・・。康一は口の中でよだれが出てくるのを感じた。そういえば昨日の昼に召還されてから何も食べていないのだ。 「うわぁー!すごい豪勢な食事だなぁー!朝からこんなに食べられるかなぁー!」 康一はここにきて初めて、「召還されていいこともあるなァー!」と思った。 ルイズは眉をひそめた。 「何言ってるの。ここは貴族の食卓よ?あんたみたいな平民が席を同じくできるわけないじゃない。」 「え・・・?」康一は目を見開いた。 「じゃあ、ぼくの朝食はどこにあるっていうのさ!」 そういうとルイズはそこで初めて気がついたように、「あー、そういえば。」と言った。 「あんたの食事、手配するの忘れてたわ。」 「わ、忘れてただってェー!!」 「しょ、しょうがないじゃない。手配するような暇がなかったんだもん。」 ばつが悪そうにしてつぶやく。 「じゃあ、ぼくは何を食べればいいのさ!」 「一食抜いたくらいじゃ死にはしないわよ。悪いけど我慢してちょうだい。」 「ぼくは昨日の夜も食べてないよっ!」 「うるさいわねー。わたしだって食べてないわよ。それよりも、椅子を引いてちょうだい。気の利かない使い魔ね。」 「こ、このぉー!!」 こいつ、可愛い顔して血も涙もないッ!ギブ&テイクといっても限度がある!大体お前がぼくを無理矢理こんなところに連れてきたんじゃないか!! 康一は踵を返した。 「ちょっと、どこ行くのよ。」ルイズが呼ぶが、 「知るもんかッ!!」康一は振り返らずにアルヴィーズの食堂を後にした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/158.html
第一章 死と再生 第二章 乱心の『ゼロ』 第三章 誇りを賭けた戦い 第三章 誇りを賭けた戦い-2 第四章 平穏の終焉 第四章 平穏の終焉-2 第五章 二振りの剣 第五章 二振りの剣-2 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~ 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-2 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-3 第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-4 第七章 双月の輝く夜に 第七章 双月の輝く夜に-2 第八章 王女殿下の依頼 第九章 獅子身中 第十章 探り合い 第十一章 土くれのフーケの反逆 ~ またはマチルダ・オブ・サウスゴーダの憂鬱 ~ 第十二章 白の国アルビオン 第十三章 悪魔の風 第十四章 土くれと鉄Ⅱ ~ 誉れなき戦い ~ 第十五章 この醜くも美しい世界 第十六章 過去を映す館 第十七章 真実を探す者、真実を待つ者 第十八章 束の間の休息、そして開戦 第十九章 夕暮れに昇る太陽 第二十章 タバサと小さなスタンド使い-1 第二十章 タバサと小さなスタンド使い-2 第二十一章 惚れ薬、その傾向と対策 第二十二章 過去 第二十三章 惚れ薬、その終結 第二十四章 怒りの日 前編